プクプクに太ったタテゴトアザラシの赤ちゃん
アザラシの赤ちゃんはだいぶ大きくなりました。現在、生後12-13日目ぐらいでプクプクです。赤ちゃんたちはお母さんの脂肪分の濃いおっぱいを飲んで1日に2キロずつ太ってきます。出産時10キロぐらいなので、現在の体重は30キロを超えていると思われます。

母子が過ごすのはたった2週間ですが、その間は愛情いっぱいです
シーズン最初に気温がプラスになった暖かい日があったので、氷のその後を気にしていたのですが、その直後にマイナス15°Cまで下がったために氷は無事にもっています。すでに赤ちゃんたちはだいぶ大きくなっているので、このあと暖かい日が来ても赤ちゃんが乗れるぐらいの氷は残っているでしょう。今年の赤ちゃんが独り立ちする前に氷がなくなってしまうことはまずないでしょう。
ただし雨がよく降るようになりました。昔はアザラシの赤ちゃんのシーズンに雨が降ることは、めったにありませんでした。天候が悪化すれば、雨ではなく吹雪でした。雨が降ったあとの氷の上はツルンツルンです。これも地球温暖化の影響でしょう。氷も面積は広いのですが、隆起が少ない氷です。氷は押しつけあって隆起ができ、厚くなっていくのですが、それがない氷です。この10年の流氷しか見たことがない人から見れば、多い氷に見えますが、それ以前の氷を知っている私や地元のガイドから見れば、昔の流氷とは別物です。
氷に行くたびに赤ちゃんが大きくなっていきます。その変化を見るのもここの楽しみです。生まれてすぐの赤ちゃんは好奇心旺盛で、私の匂いを嗅ぎに近寄ってきましたが、30キロもあるプクプクの赤ちゃんは近寄ってきません。体が重いので、あまり動きたがりません。そっと体を低くして近づくと、そばに寄ることができます。
アザラシの赤ちゃんとの出会いを求めて、日本からも観光客の方たちが訪れています。アザラシの赤ちゃんと並んで記念写真を撮ったり、そっと体に触れることができます。このウォッチングができた経緯には、80年代のアザラシ漁への反対運動の影響があります。

日本からも多くの観光客が訪れ、アザラシの赤ちゃんとの出会いを楽しんでいます
アザラシの赤ちゃんは、最初は食用や油目的、次に毛皮目的で漁の対象になりました。飛行機や大型船を使っての大量捕獲が行なわれて、その生息数の急減への警告が生態学者によって指摘され、大規模な漁への反対運動が行われました。その結果、「白い赤ちゃんの漁が禁止」になり、白い毛皮目的の漁はなくなりました。
アザラシウォッチングはその中で「漁から観光へ」の収入の転換を目的に始まりました。ところが収益は地元の人たちではなく、それを提唱した動物保護団体が持っていってしまう。その構図に疑問を感じた地元の人たちが自らの手で行なおうとして始めたのが、現在のマドレーヌ島のアザラシウォッチングです。日本からも毎年100人ぐらいの観光客がやってきます。
私はかつては天安門事件、湾岸戦争、ソマリアなどを取材した報道カメラマンだったのですが、始まったばかりのウォッチングに参加してアザラシの赤ちゃんとの出会いを体験し、それを機に動物写真家へと転身していきました。
広大な大自然の中での可愛らしい動物の赤ちゃんとの出会いには、それだけの魅力があります。
そして氷の上を訪れた方に勧めているのが、アザラシの赤ちゃんだけでなく、流氷の上での時間も楽しんでくること。地球温暖化で数十年後に流氷ができるかどうかはわかりません。この20年間の流氷の変化を知っている私からは、それは決して大げさな警告ではありません。

氷の上に寝転がると、流氷の広大さを実感し、耳をすますといろいろな音が聞こえてきます
流氷とはどういうものか体で感じてほしいので、氷の上に寝転がって見ることを勧めています。360°が水平線の流氷で見る青空は地球上で見ることができる最も広大な空です。そして時には耳をすませてアザラシの赤ちゃんたちの鳴き声を聞いてください。
私たちが素晴らしい生命力あふれる惑星に生きていることを実感する時になるでしょう。
(写真・文/小原玲 ©Rei Ohara 2009 All rights reserved )
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