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《シリーズ・クリチバの奇跡に学ぶ》 ひとを主人公にした「花通り」の誕生
(2008年12月25日 14:08)

ブラジルのクリチバ市は、1970年代からひとを主人公とする革新的なまちづくりを続けてきたことで世界中から注目されています。生物多様性条約第8回締約国会議(COP8)の開催地でもあるこのまちでは、生物多様性への配慮も随所にみられます。戦後、日本からブラジルに移住し、このまちづくりの立役者の一人となった・元クリチバ市環境局長の中村ひとしさんに、自らの体験を基に、「クリチバの奇跡」をシリーズで振り返っていただきます。(掲載は毎月1回程度を予定しています)

「都市の主人公は、「ひと」である。 故にひとを大切にするまちづくりをしなければならない。」という強い信念を持って1971年、都市計画家で建築家でもあるジャイメ・レルネル(Jaime Lerner)氏は、33歳の若さでブラジル国はパラナ州の州都であるクリチバ市の市長になりました。そして翌1972年、当時クリチバ市では最も賑やかで交通量の多かった繁華街、キンゼ・デ・ノヴェンブロ通りから完全に車をシャットアウト、平日でも車の入ることの出来ない全くの歩行者天国にしました。これは市民に実際に車のない中心街を体験してもらい、ほんとうに「ひと」を大切にするまちづくりに目覚めてもらうことが目的でした。

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キンゼ・デ・ノヴェンブロ通りの昔(上の写真)と今(下の写真)

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その頃のクリチバ市の人口は60万人。ここクリチバ市も世界の他の多くの都市と同じく、交通渋滞、公共交通の不整備、緑地や公園の不足等々、世界中のどこにでもある問題を多く抱えた一地方都市にすぎませんでした。それが見事に世界的な人間都市に生まれ変わったのです。

一方世界の都市計画家達の羨望の的となった首都ブラジリアは、都市機能を主眼において設計・建設された。 車による移動がすべての基本であり、まさに21世紀へ向けての新しい都市モデルとして出現し注目を集めました。しかし実際にはヒューマンスケールがほとんど無くなってしまったのです。

ほぼ同時期にでき上がった2つの都市、人間都市クリチバと自動車を中心とした都市計画の見本のような都市ブラジリア。しかし40年近く経った今、クリチバ市は世界中から人間都市、環境都市として注目を浴びるようになり、一方ブラジリアは、都市機能が止まってしまう程の大渋滞と、しかし自動車なしでは生活できない都市として苦悩し、地球温暖化対策にも全く相反する都市となってしまっています。 

いまではこの通りは「花通り」と呼ばれ人間都市クリチバのシンボルであり、また市民の誇りにまでなっています。しかし当初これを実現するには大変な苦労がありました。特にこのキンゼ・デ・ノヴェンブロ通りの商店主たちは全員が車の締め出しには大反対でありました。 彼らは「この通りで商売が成り立っているのは、お客さんが車で来てくれるからであり、もし車が入れなくなればお客さんが来なくなり商売ができなくなって潰れてしまう」 という意見でした。しかし、「ひと」を大切にするまちづくりに強い信念を持っていたジャイメ・レルネル市長は、自の政治生命をかけてこれを強行したのです。通りの3区間(約400メートル)の車道を歩行者専用道に換えてしまったのです。 かつて車道であったところには花あり、緑あり、ベンチあり、喫茶店に花売り店、雑誌店等々が適度に配置され、「ひと」と「ひと」との出会いの場をつくり、「ひと」のための空間を取り戻したのであります。これが「花通り」の始まりでした。 

この工事は実際には大型連休の期間を利用して実行され、クリチバ市役所の全部署が協力し合い、たった72時間で完成させてしまったのです。 連休明けに休暇から戻って来た商店主達はこれを見て怒って裁判所に訴え、次の週末には全員でこの花通りに車を乗り入れ、もとの車道に戻そうと計画しましたが、しかしいざ実行という土曜日の朝、大型トラックやジープなどに乗り現場に駆けつけた商店主達はある光景を目の当たりにし、この計画を断念せざるを得なくなったのです。それは400人もの子供達が花通りいっぱいに広がって、親達と共に楽しそうに絵を描いていたからであります。

やがて花通りには人々が集まりだし、反対していた商店主達の店の売上げも上がってきたのです。そしてその2ヵ月後にはこの花通りにつながる区画の商店主たちが市長に面会を求め、自分達の通りも花通りにするよう陳情をしたのです。この様にして花通りは次々と延長され、集客人口が増えていったのです。 ちなみにこの「土曜日のお絵描き会」は、その記念としていまでも続いています。 

ジャイメ・レルネル氏いわく 「車は、例えれば姑と同じで、いつも良い関係を保っていなければならない。しかし、その姑に家庭を乗っ取られてはいけない。」

(中村ひとし)

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