木を活かす木製・木材乾燥装置-「愛工房」

山から伐採した木は通常、そのまま3~4ヶ月放置して水分を蒸発させてから製材する天然乾燥か、伐採後すぐに製材所へ運び短期間で乾燥させる人工乾燥がある。

天然乾燥はゆっくり乾かすことで木への負担が少なく、丈夫な品質で色艶の良い木材に仕上がるが、製材するまでに時間がかかる。一方、人工乾燥は短期間で済むが、高温により木の繊維が痛み、強度に乏しく腐食や変色が現れやすくなる。しかも大量の化石燃料を要するため、環境破壊の恐れもある。

では短期間の乾燥で質のよい木材をつくるには、どのような方法が適しているのだろう。そのヒントを与えてくれるのが、東京都板橋区にある「愛工房」だ。

木製・木材乾燥装置「愛工房」

木への愛情が伝わる工房

「木も人間と同じように生きている。人間が心地よく感じる温度なら、木だって気持ちがいい」と語る伊藤好則さん。
世界初といわれる木製の木材乾燥装置・愛工房は杉板の乾燥中で、その中はまるで温室のように快適な温度が保たれていた。

愛工房の特長は、40~45℃の低温稼動で木の性質を損なわずに短時間で乾燥させられる点だ。しかも短時間乾燥によって生産回転が速くなり、電気を使用するが低燃費でコストが大幅にかかることもなく、環境への配慮ができる。

なにより、特に乾燥が難しいとされる杉板でも、たった1日で含水率を10%台にまで下げることができるうえ、従来は硬くて避けられていた節の部分も簡単にカットできることから、木材の乾燥技術における画期的な開発として業界や学会での注目度も高い。

しばらく中に滞在したが、サウナのようにジットリした汗をかくこともなく息苦しささえ感じない。伊藤さんが言うには「この中で木は人間が吐き出すCO2を吸収してくれる。そして木に含まれる水分や成分は蒸発して人間の身体に吸収されていく。さらに身体があたためられることで、ここに来てリラックスできる人や、肩こりなど身体の不調が改善された人もいる」とのこと。この愛工房では、木材を乾燥させる際に一般の人を招き入れ、ヒーリングルームのような空間も提供しているそうだ。

 

作業場には乾燥させた木材が並ぶ

広がる可能性

また樹木を乾燥させたときに出る水を使って、木材を美しく染めることもできるのだとか。実際に見るとわかるのだが、木目の美しさを残したまま自然な色に染まっており、ペンキなどで表面を塗ったものとは異なる、なんともいえない優しい風合いがある。
なぜこのようなことが可能かというと、この水はもともと木の成分を含んでいる水なので木材と相性がよく、水と一緒に染料も木肌へ浸透していくからなのだそう。この原理を利用すれば、防腐や抗菌作用のある木材を作ることもできる。

伊藤さんは「愛工房は、特に日本の杉の木を活用してもらうために開発した。木の持つ魅力を引き出す乾燥装置として、病院や福祉施設、学校などの建物から一般の住宅の内装、インテリアにまで愛工房の木材を取り入れてもらいたい」と熱く語った。