マイファーム トップ
真夏にハウスのトマト栽培体験 ― くくむ農園で「本来農業」研修
(2008年9月4日 00:00)

「本来農業への道」という持続可能な農業への挑戦へ向けたシンポジウムが、今年、4月に東京でありました。会場は満席。このシンポジウムでは、現在の農業の現状と農業の役割をふまえ、これからあるべき農業へ10の提言を行っています。情報システムの企業で10数年間、会社員として働いてきた筆者にとっても「次世代農業、かっこいい。」そう思えたシンポジウムでした。
※詳しくは、以下に議事やアンケート結果が公開されています。
http://www.sas2007.jp/
※次回は、2008年9月28日に田原市で行われるそうです。  http://www.sas2007.jp/symposium.html 

そこで、「自分も農業の現場を体験して、何が動き始めているのかを体験しよう!」と思いたち、「本来農業の道」の推進メンバーのひとつである、イシグログループが運営する「くくむ農園」に会社の夏休みの間、体験研修を申し入れました。以下では、その体験と、そこで得られた感想を共有したいと思います。 

くくむ農園は、愛知県渥美半島の田原市にあります。遠州灘と三河湾に挟まれた、渥美半島の夏空は、以下の写真のように抜けるような青。そして、照りつける太陽と心地よい風。そんな土地でした。
hatto080904-01
ハウスから、遠州灘の方角を臨む

hatto080904-07
トマト栽培のハウス

くくむ農園では、規模型生産を目指したハウス栽培でトマトを生産しています。ハウスを使うのは、環境をコントロールできるから。コントロールしたいのは、太陽のたくさんの光、水、そして、虫。トマトは、アンデス高原が原産といわれており、日照が多く雨が少ない地域です。日本は多雨すぎます。また、トマトの受粉には、外来生物のハチ(セイヨウマルハナバチ)を使います。そこで、圃場の内と外は、出入りが少なくなるよう、厳重に管理しなければなりません。このために、ハウス栽培が適しています。

hatto080904-02
管理された圃場への出入り口

通常、規模化するトマト栽培は、ハウスの中で水耕栽培を行います。土壌が不均一だと、作物の出来具合も不均一になってしまうからです。また、栽培も楽です。しかし、水耕栽培だと、廃液が出てしまい、環境を汚してしまいがちです。そこで、くくむ農園では、土づくりにこだわった土耕栽培によって規模化しようと挑戦しているのだそうです。土のばらつきは、なるべく押さえ、有機資材を使い、「本来の味がするトマト」を作ることができるそうです。研修中に出荷できないトマトをいただき、朝ご飯にさせていただきましたが、確かに、味は濃いです。
http://www.kukumu.jp/kodawari/index.html

もうひとつ、この農園のトマト栽培の特徴は、JGAPを取得して、きちんと管理した農業を目指していることです。田原市の特徴といえば、トヨタ自動車の田原工場があること。有名な無駄のない組み立てで知られる「カンバン方式」をはじめとする生産方式が、この農園にも影響を与えています。つまり、従来農家の経験と勘と暗黙知に頼ってきた農家の生産方式を標準化して、生産の現場では5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底して、効率的なハウス栽培を目指しているのです。実際に、筆者が家庭菜園を行っていたときには、車のトランクの中によく農機材をごちゃごちゃに入れて出し入れがたいへんだったりした記憶がありましたが、ここではすぐ必要な道具が出てきて気持ち良く作業ができます。

hatto080904-03
洗濯コーナー
 

くくむ農園は、有限会社の形式をとっています。社員とパートアルバイトで構成されます。パートアルバイトの女性たちは、近隣の農家の主婦らを中心に技量のある方たち24名です。

お盆休み期間中とあり、数名の女性が参加するだけでしたが、たいへん元気な女性ばかりでした。ひょっこりやってきた筆者もあっという間にとけ込ませていただきました。女性らは、トマトの収穫や出荷が主な作業です。朝8時に出社すると、出社カードを押し、お茶の準備と洗濯にとりかかります。そして、タオルを頭に巻き付け、ポケットに冷凍室から取り出したばかりの保冷剤を詰め込みます。いざ、圃場の中へと向かいます。

hatto080904-04
選果および出荷コーナー。使わない時間帯は
カバーをきちんと被せます。

実は夏は、トマトにとって暑すぎるために難しい季節だそうです。ハウスでは、ちょうど出荷のピークがひと段落し、新しく中玉トマトの作付けが行われているところでした。この時期の男手の作業は、育ち盛りのトマトの苗の支柱立て。作付けされているトマトの苗の前後の地面にパイプを突き刺し、支柱で支えます。これはトマトが成長した際に、収穫しやすいように誘引するためです。

hatto080904-05
一面、ずっとトマト畑
 

株式会社化することで、人の動員が機動化しますが、一方で、課題もあります。一般農家の夏の農作業といえば、早朝と夕方。一番暑い昼から午後3時くらいまでは休憩です。しかし、会社組織では、朝早すぎてもいけませんし、昼間も働かなければなりません。午前が4時間、午後4時間、合計、8時間。真夏のハウスの中は、もちろん、暑いです。パイプを組み上げるのは肉体労働。本来はさほど重労働ではないハズなのですが、日照を受けて、ハウスの中は、午前10時には35度を超え始めます。こうなってくると、暑いというか、吹き出る汗。15分動いているだけで、動きが鈍ります。景気づけでFMをガンガンならしますが、これは、いい感じ。音楽は脳内麻薬になります。FMが止まると休憩です。50分に10分休憩。休憩時間の、冷たいお茶がおいしい。ハウスの外はさわやかに風がとおり、涼しい。一緒に働いている人たちと、世間話を交わします。 

パートの女性らは、「昨年は、ハウスに窓がなかったから、40度になったけど今年は涼しいわよねー」「体が1週間あれば慣れるわ。慣れ慣れ」ということですが、いやいやいやいや、普通に暑いです。筆者のような体験希望者や、農業経験者にとっては、こうした条件でも働くことが出来るかもしれませんが、多くの都市の若者が喜んで働く職場とは言い難い条件です。 

しかし、たかだか体験だけでは、実際にプロの農家になれるわけではありません。くくむ農園では、今後の農業を支える新しい経営者を育成するプログラムに力を入れようとしています。2年間の研修コースで1年目は現場で学びながら働き、2年目はハウスを任されるという現場密着型の人材開発プログラムです。

hatto080904-06
筆者(左)が一緒に働いたのは、くくむ農園
での農業研修の一期生の根木さん

このプログラムでは、3年目から独立して農家として経営を行うことができます。根木さんも、この独立を目指してがんばっています。 

筆者としては、持続可能を目指し挑戦している「現場」を目の当たりにして、そして、そこに挑戦する人たちに出会えて、たいへん有意義な体験でした。振り返ってみると、「次世代型農業」とは、ヒト・モノ・カネにおいての本来あるべき姿の農業を実現する農業と言い換えることができるかもしれません。

• モノ:本来あるべき生産
 –  作物:本来の作物の味わいを引き出す
  –  ライン:作業の標準化によるばらつきの抑制
 –  環境:土地、環境を痛めない

• カネ:本来あるべき安定したキャッシュフロー
 
– 農家にとって:リスクの少ない安定した生業へ
 
– 投資家にとって:安定した投資先

• ヒト:本来あるべき働く喜び
 
– 経営者: 農地を保有する精神欲と経営能力が活かせる仕事
 – 従業員: 誇りとキャリアにつながる仕事
 – パートにとって: 体と心の健康につながる仕事 

今、高齢化、原油・肥料の高騰により日本の農業はかつてない危機を迎えています。一方、世界的な食糧価格の高騰や、株式会社の農業への参入の自由化は、農業の新しい機会でもあります。今、根木さんのように、農業に挑戦してみようという人たち、そして事業機会を見いだそうとしている起業家も増えています。筆者は、こうした起業家たちが農業の道で成功するための最大のかぎとなるのは、働く現場の「ヒト」のやる気を引き出すしくみをいかに構築するか?だと思いました。もしも、日本の食糧自給率を高めることが必要だとしたら、新しい効率的な農業を広めるとともに、働き手がたくさん必要ということになります。この多くの人たちが、スターバックスで働くように「かっこよく」働けるためには、楽しく魅力ある仕事と、魅力あるリーダーづくりが重要になってくるからです。農業が労働集約的な産業であればあるほど、これからの農業の経営は、働くことのやりがいづくりと働きやすさにこだわった現場づくりを考え抜くことが大切かもしれません。

NPO法人アースデイ・エブリデイ理事・服部徹)

コメント

コメントする

(コメントは承認された方のみ表示されます)

トラックバックURL

トラックバック

MAP