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自然産業による循環産業革命で持続可能な未来を創る アミタ・熊野英介社長に聞く
(2008年7月31日 09:00)

FSC森林認証*1事業を通じた環境・社会・経済に配慮した適切な森林経営をめざす活動をはじめ、農山漁村の地域再生・自然再生事業のプロデュース等、独自の発想で真の環境ビジネスを切り拓いてきたアミタ株式会社。2008年2月に新著『思考するカンパニー~欲望の大量生産から利他的モデルへ』(幻冬舎メディアコンサルティング)を出版した、代表取締役社長・熊野英介さんに、最新の挑戦「森林ノ牧場」について伺いました。

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――「森林で牛を飼う」というのは、どこから発想されたんですか?

40~50年くらい前までは、日本でも森林で牛を飼うのは当たり前の風景だったんですよ。全国で4ヵ所だけ今でも山地酪農をやっていらっしゃる。その酪農家の一人にご指導いただいて、2007年12月、京都府京丹後の雑木林を借り「森林ノ牧場」を開設しました。現在、ジャージー種の乳牛を7頭、森林の中で自然放牧しています。牛は、下草をえさにお乳を出し、排泄物は森の肥料に……という自然の循環を生み出すと同時に、森林を歩き回って下草を食べて整え、倒木などを蹄でならし、森林管理の一端を担ってもくれるんですね。

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――補助金を入れなくても、森林を維持できるわけですね。

森林を木材物販という面からだけ見たら疲弊していくばかりです。森林という空間を、もっと別の形で利用できないだろうかと。たとえば、森林+酪農。林業だけでは何十年かかるところを、酪農乳牛なら乳製品を販売するので1日で収入になります。農業や環境教育というような教育ビジネス、住みたいという人が現れれば住宅ビジネスもいい、自然豊かな暮らし、安全な食、癒しの空間など、森林は沢山のビジネスの可能性を持っています。森林をどのように多機能化し、多能職化すれば収入が上げられるかを実験中です。

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 アイスは通信販売でも購入可能

――手ごたえはいかがですか?

新しい市場を作れるかどうかがカギですね。まず大事なのは、顧客を作るということです。

たとえば2月から京都駅直結の「ジェイアール京都伊勢丹」地下2階の乳製品売り場で「森林ノ牧場」で生産される「森林ノ牛乳」(500ml)を630円(税込)で販売しています。この通常の牛乳の約5~6倍の価格を顧客が受け入れてくれるかどうか。この価格を決める際には、当初、専門家たちはこぞって首をかしげましたよ。でも毎日1回、1本飲んでもらうような既存の牛乳市場に乗せるつもりは全くありませんでした。週1回、豊かな気持ちになるような商品にということで、言うなればスイーツと一緒の発想です。

生乳100%、低温殺菌の安全で美味しい牛乳は、専門家の心配に反し、ずっと完売を続けています。牛乳ですが、敢えて牛乳市場では勝負しない、そういうビジネスの感覚が重要だと思います。パッケージのデザインにも凝って、ビン自体は既成のものですが、「素朴なあたたかさに好感が持て、牛乳のおいしさを引き出している完成度の高いデザイン」ということで、ガラスびんデザインアワード2007で優秀賞をいただきました。

――今後は、「森林ノ牛乳」ブランドを全国に?

いや、あくまで牛乳は副産物で、「森林酪農」というビジネスモデルを普及させたいと考えています。

以前は、各地に学校林というものがあって、校舎を改修する際、その木材を売ったり使ったりしたんですが、今はほとんど放置されている。同時に過疎化が進んで、小学校・中学校あわせて生徒が100人程度という地域がたくさんあります。そういう地域で、100人に毎日、給食で牛乳を飲んでもらうためには、お乳の出る牛が2頭いればいいんです。

通常の柵飼いなら1頭あたり30リットルは搾乳できるところ、森林酪農の自然放牧の牛は1頭あたり10リットル程度しか搾乳できません。でも、2頭で20リットルですから、それを200mlで割れば、100人の生徒に充分いきわたる計算です。乳牛には、搾乳期と閑乳期があるので、常に3頭はお乳が出るようにするためには4頭の牛を飼えばいい。

1頭を飼うために必要な森林は1ヘクタールくらいです。学校林は大体2ヘクタール以上ありますから、当社はそこに牛や設備、ノウハウをレンタルし、保護者に労働を提供してもらえば、伊勢丹で500ml/630円で売っている美味しい牛乳を、子どもたちは毎日飲めるわけです。

――いつも傍らに牛がいる学校、というのも楽しそうですね。

そうです。牛は今のように工業的にズラっと柵の中に並べられ、合飼料を強制的に食べさせられ、人工授精をさせられていると、消耗して5年くらいで死んでしまうのですが、自然放牧だと15年くらいは生きます。乳量は3分の1でも3倍生きますから、1頭あたりの生涯乳量は自然放牧のほうが多い。長生きすれば仔牛を生んでくれますから、資産も増える。こういうアタリマエのことを、もう一回見直しませんかという提案なんですね。

子どもたちにとっても、今の給食の牛乳では飲んでも何の感動もないでしょうが、裏山で飼っている牛のお乳、お母さんが搾ってくれた牛乳なら、自然の恵みを実感できるという良さもあります。

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 牧場の傍にある「森林ノ工房」は、自然素材を利用したストローベイルハウス

――牛の世話をしたい、森林に関わりたい都会人も多いのではないでしょうか。

地方でも農業をしていない人は、多いんですよ。定年になっても、田んぼは親父さんがやっているから、やることがない。そういう人に話を持ちかけると、子どものころには確かに自宅に牛がいた、やっぱり牛はかわいいねぇ……なんて、嬉々としてやってくれるわけです。そんなふうに、みんながハッピーになれるビジネスモデルを創っていきたいですね。

かつては「生存圏」の中に「生活圏(消費)」と「経済圏(生産)」が分離せずに存在していたのに、工業化でそれらが分離してしまいました。もう一度、それらを結びつけるような「関係づくり」を商品化していく企業家が増えて、それらを近づけていかなけ
ればいけません。

昔は、裏山に薪を採りに行く孫に、祖父が「裏山の薪を採りすぎると山の神様の罰があたる」と言って乱伐を戒めたものです。それは、自然を破壊して生産効率を優先すれば、結果として自分たちが生存できなくなるという当事者感覚を持っていたからです。しかし、工業化し、経済が発展してくると、薪は店で買うようになる。それも安ければすぐに必要でなくても買ったりする。自分の裏山は青々と豊かなまま、薪を沢山所有でき、地域のお店も潤う。でも、その代わりに、地球の反対側を禿山にしている……。昔は子どもでも知っていたルールを、立派な大人たちが壊しているんですね。

「生活圏(消費)」と「経済圏(生産)」を近づけていくこと、それが本当の環境ビジネスではないか。自然産業*2で、早急に新産業革命(=循環産業革命*3)でも起こさないと、私たちが幸せに暮らせる地球環境は守れない、間に合わないと思っているんです。

――同感です。本日はありがとうございました。

*1 FSC森林認証
FSC(Forest Stewardship Council: 森林管理協議会)森林認証は、世界的な森林減少・劣化の問題と、グリーンコンシューマリズムの高まりを背景として生まれた、「適切な森林管理」(Well-Managed)を認証する制度。認証された製品が市場に増え、購入が進むことによって、適切に管理される森林が守られ、森林の破壊や劣化を招くことなく、木材消費が進む。

*2 自然産業
自然環境に過度の付加を与えることなく、持続的かつ循環型の営みを可能にする第一次産業(農林水産業、牧畜、狩猟採集活動など生物資源に働きかける産業)および、自然資源の持続可能な利用に基づくその他の多様な経済活動。

*3 循環産業革命
自然産業を基盤とする経済システムが世界に浸透し、次世代に継承されていく社会へのレボリューション。

(市谷ライヤ)

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