伝統的木造建築が衰退の途にある現状に、建築基準法が拍車をかけていることを日本人の多くは知らない。2008年5月31日(土)、名古屋市昭和区の名古屋工業大学で行われた「近山スクール名古屋2008第1回」では、建築基準法と木造建築についての講義に県外から2人の講師が招かれた。
講師は熊本県にあるすまい塾 古川設計室有限会社代表の古川保さんと、兵庫県で株式会社兵庫確認検査機構を経営する戸澤光弘さん。
「日本建築士会連合会まちづくり大賞」や「真の日本の住まい住宅コンぺ・林野庁長官賞」を受賞し、「熊本の木で家をつくる会」を発足させた古川さんは、まずエネルギーの視点から現代の住宅づくりの問題点を指摘する。
日本の木の特質と美しさを熟知する古川さんの設計した家には、生活のあらゆるところに木の息遣いが感じられる。空間はもちろんのことディテールまで。そこにはIHヒーター、エアコン、大型冷蔵庫が存在しない。それが、かたくななまでの古川さんの設計ポリシー。
「建物生産時と処分時にかなりのエネルギーを要するオール電化・高気密・高断熱の家は、全館冷暖房が基本。このことがかえってエネルギー総量を増加させている。断熱材を入れれば減税するという法律は馬鹿げている。今どき断熱材を入れない家はない。関西以南では断熱材の多量使用が、逆に夏期のエアコン使用量を増やしている。エアコンを使わない家に減税する方がよほどいい」
こんな提案も。「これからは熱線吸収ガラスや2重ガラスが省エネ基準となるが、普通ガラス+障子を追加してほしい」「普通ガラスと違い、熱線吸収ガラスは重金属が含まれているのでリサイクルが不可能だ。同じく熱貫流率を小さくする性能をもつ『障子』に、国は無関心」と。法律で後押しする省エネ住宅が、ゴミの山をつくることになろうとは!
そもそも建築基準法とは、国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低基準を定めた法律である。耐震強度偽装事件を受けて2007年6月に建築基準法が改正された。改正基準法は伝統的な木造建築の衰退をさらに加速させると、両氏は口をそろえる。
伝統構法を実践する地元の大工職人の仕事ぶりに感銘し、かれらの申請業務の手助けをする目的で民間の確認検査機関を立ち上げた戸澤光弘さんは「筋交いを入れなければ金融公庫の融資が降りないような法律を作ったことが間違い」と指摘する。「姫路には入母屋作りという伝統構法を継承してきた多くの大工さんがおり、筋交いを入れなければ脆弱、といった家づくりをかれらはしてきていない」ときっぱり。「建築基準法の中には『伝統構法』という言葉すらない」と。
木造住宅と一口にいっても、現在主流となっている筋交い構法のものと伝統構法のものとでは、大きな違いがある。前者は壁に筋交いを入れたり合板を張るなどし、つなぎ目には金物を使用する。これに対し、後者は直接柱やはりをつなぐ伝統の木組みの技術。
面でゆれを押さえ込む筋交い構法に較べ、伝統構法の真髄は柔構造とされ、地震の際、ゆれに対して通常の建物よりも大きく変形するが、しなやかさや粘り強さゆえに地震のエネルギーをあちこちで少しずつ吸収するため相殺されて、建物全体としては壊れにくいとされている。
木造の構造計算が可能になって10年にも満たない。2000年の建築基準法改正時には伝統構法のための「限界体力計算」が初めて導入され、全国各地で伝統構法が息を吹き返しつつあった。しかし今回の改正で、この「限界体力計算」に大きな規制が加わることに。
「一般の木造住宅は、基準通りに筋交いや金物が入っていれば複雑な計算なしで建築確認が可能だが、伝統構法の家では、木造2階建ての住宅でも330坪以上の大型鉄筋コンクリートと同じ扱いとなる」と古川さん。しかも限界体力計算の審査は地元でなく東京一極集中で行われるため、審査量に23万円、期間に70日を要する。「たかが住宅なのに、これでは伝統構法の家を建てる人がいなくなってしまう」と。
伝統構法の家の基準づくりにはまだ4~5年はかかると前置きした上で、「完成するまで、2000年の建築基準法のままでいいのでは。早急に対策を打たないと、日本の建築文化が消えてしまう」と古川さんは提案する。
戸澤さんも「伝統構法を残すためには、世論を高めて法律を変えてもらうしかない」と。
スクールを主催するNPO法人「緑の列島ネットワーク」の大江忍さん
伝統構法は複雑な接合部の評価が難しく、本格的な研究は始まったばかり。日本人の英知で、世界に誇る日本の美しい木造建築を未来のこどもたちにもつないでいきたい。
(浜村良子)
















