2008年9月25日、佐渡の空にトキが放たれる日がやってきた。曇天の下、佐渡市新穂正明寺(にいぼしょうみょうじ)の水田地帯で開かれた放鳥式には、多くの観客が詰めかけた。東京や沖縄から駆けつけた人もいれば、飛び立つ瞬間を見るために学校や仕事を休んだ人も。5時間以上前からスタンバイしていた観光客、10社以上のマスコミ。各々カメラや双眼鏡を抱え、吹きすさぶ風も忘れるかのような熱気に包まれていた。
トキは一度、日本で絶滅している。里山・棚田の消滅などの自然環境の変化と乱獲がその理由だ。そして最後に生き残ったのが佐渡だった。その佐渡の野生のトキが絶滅した後、中国からつがいのトキが贈られた。佐渡トキ保護センターで人工繁殖されたトキは、122羽にまで増え、一部を試験放鳥することとなり、この日、秋篠宮ご夫妻、崔天凱駐日中国大使らを迎えて、放鳥式が行われた。
「もう一度トキを空へ」。ごく少数の先人たちの粘り強い動きから始まった保護活動は、形を変えて実を結び、遂にトキが佐渡の空を舞った。会場近くには虫の声が鳴り響き、トンボが飛び交う田んぼ。その上空でオレンジ色の美しい翼を精一杯に広げて、計10羽が一気に飛び去った。
だが問題はこれから。トキも人も住み良い環境をつくるために、これからどう動くかが重要である。訓練されたトキとはいえ、現状はあまりにも厳しい。トキにとってだけでなく、農家にとっても、だ。今の田んぼは昔とは違う。佐渡ではこれまで少なかった減・無農薬の意識もだんだんと広まりつつある。しかし、それを実践することはたやすくない。
佐渡の農家のほとんどは高齢者ばかりだ。そして今、米の値段は安い。米を食べる人が少なくなった。不景気の世の中、ただ安いものを追い求める風潮もある。
自然環境を変えていくには社会環境をも考えなければならない。
さいわい、都市部では食の安全に対する意識が高まりつつある。これが広がり、そのニーズに合わせて農業が活性化すれば、トキも人も安心して暮らせるようになるだろう。
長年の願いはひとつ果たされた。バタバタと必死ではばたく姿に、私も思わず「頑張れ!」と叫んだ。トキの未来は、私たちの未来につながる。
その日、佐渡に住む私のもとへ普段より多くのメールが届いた。「トキ、飛んだらしいね。見た? 綺麗だった?」今まで広くは知られていなかったトキ・佐渡の情報も国内各地に飛んでいた。トキを通じ、離れた友人たちへ意識も広がっていくことを期待したい。
(SADO伝統文化と環境福祉の専門学校環境マネジメント学科1年 野原 あずさ)
















