寒風吹きすさぶ戸外から喫茶店の扉をあけて、一杯のコーヒーを注文する。立ち上る薫りとともに運ばれた茶褐色の液体に、どれほどのドラマが秘められていることか。コーヒーの輸入、卸しをして60年。「少しでも品質のいいものをお客様に」という創業者の意向を守る3代目の加藤慶人社長に、直営のコーヒーショップでお話をうかがった。
コーヒーの世界は奥深い。用語においても、従来から耳にするフェアトレードコーヒー(発展途上国の生産者から適正価格で継続的に購入する)に加え、最近では、サステナブルコーヒーやスペシャルティコーヒーといった新たなコーヒー分野が登場してきている。まずはそれら用語の解説からお願いした。
カップオブエクセレンス(COE)は、究極のおいしさを追求したコーヒーと話す
「サステナブル(“持続可能な”の意味)コーヒーとは、生産者の労働環境の改善や自然環境の保全に気を配って作られたコーヒーのことです。地球上には多様な生物が集まる“ホットスポット”と呼ばれる地域があり、その多くはコーヒー生産地域と重なっています。つまり、コーヒー生産地域の自然環境や社会問題の改善環境を整えることは、地球を守ることにつながるということがいえます。たとえば果皮・果肉が発酵した水で溜め池を作り、ろ過した水は農園に散水し、残土は乾燥させて農園に戻す、といったこともしています」
「スペシャルティコーヒーとは、独特の風味やおいしさを追求したもので、名門といったものにこだわらず、品質で勝負するコーヒーです。なかでも、究極のおいしさ(スペシャルティ)を追求したものが、カップオブエクセレンス(COE)の称号を与えられ、サステナブルコーヒーとして愛飲されているのです」
COEのボリビア産“カフェインカ”。口に含んだ瞬間、さわやかな甘味が広がる
最高峰のコーヒー品評会、COEのシステムは、世界最大のコーヒー生産国ブラジルが、生産者と消費者が共にコーヒーを味わい、品質を決めようと言い出して始まった。年に一度の国際審査会において、スペシャルティ・コーヒーの生産者(ブラジル、コスタリカ、コロンビア、ボリビア、ニカラグア、ホンジュラス、ガテマラ、ルワンダ、エルサルバドルなど)と50カ国余りの消費国の輸入・焙煎・小売業者、また国や大学関係者らが参画し、約1週間にわたってコンペティションが繰り広げられる。最後の山場では、米国、欧州、日本、カナダ、オーストラリア、ブラジル、ガテマラ、ニカラグアなどのコーヒー味覚審査のエキスパート、25名前後から成る国際審査委員らによって、ほんの一握りのその年で最高のコーヒー、カップオブエクセレンスが選出される。
採点項目は、アロマ・風味、後味の印象度、酸の質、口に含んだ質感、カップのきれいさ、甘さハーモニー均衡性、総合評価。その後、公開国際インターネットオークションで、最高価格で落札したコーヒー輸入会社やロースターらによって販売される仕組みだ。透明性100%の流通システム。この称号を勝ち取った農場主は社会的地位と名誉を獲得し、持続可能な経済発展が約束される。このように、生産者と消費者とが直接コミュニケーションをとることができ、透明なオークションシステム下で取引されるCOE 認証のコーヒーは、サステナブルコーヒーの形態を成している。COEの導入以前は、生産国輸出業者のカップテイスター(品質担当者)が品質と価格を決めていたそうだ。日本からは毎回5名ほどが国際審査委員として参加し、加藤さんはこれまで約45回行われたなかで、初回から、実に20回以上、参加しているという。
カフェボンタインの店内(名古屋市中区) COEも含め、スペシャルティコーヒーが充実
名古屋市中区にあるカフェボンタインでは、この限られた幸せな一杯、カップオブエクセレンスを味わうことができる。日替わりの“本日のおすすめコーヒー”(一杯280円:全てスペシャルティコーヒー)としても供される場合があるので、うまく遭遇できれば運がいい。この日、記者がいただいた本日のおすすめは、ラッキーなことに、COEのボリビア産“カフェインカ”だった。口に含んだ瞬間、さわやかな甘味が広がった。トレーサビリティを追跡すると、カフェインカはネットオークション上でボンタイン珈琲が1ポンド当たり7.8㌦で落札している。通常は、1㌦が相場。「原価が高いので一杯の利益率は低いですが、この希少なコーヒーをより多くのお客様に味わっていただき、カップオブエクセレンスのことをできるだけ多くのお客様に広めたい」というのが、加藤さんの気持ちだ。
もし、あなたがその日、カップオブエクセレンスを味わうことができたなら、幸運が舞い降りたと幸せをかみしめて間違いない。
(浜村良子)




















