グッドニュース・ジャパン トップ
地域に尽くした父想い、「菅古道」の復活に取り組む - 野中杏一郎さん
(2008年10月12日 08:55)

長野県木祖村の菅古道(すげこどう)の復元をたった一人で始め、徐々に加わった仲間とともに、このほどようやく古道の復元を実現した、眼科医の野中杏一郎さんに話を聞いた。

 「昔は親よりもじいさん、ばあさんに教育されてね。近所のお年寄りもよく可愛がってくれた。よその家のおやつも自由に食べてたし(笑)。人の子でも悪いことしたら、ちゃんと叱ったもんです」と語る野中さん。「そういう人たちが苦労して、この菅を発展させたのです」。

hama0831-3
自ら藪かきをして、荒れ果てた菅古道を復元した野中杏一郎さん

郷里の長野県木曽郡木祖村の菅地区で、荒れ果てた古道の復元に取り組んで4年。「以前は木曽小馬(こま)がいっぱいいて、年に一度、馬市が開かれ、皆、菅古道を通っていました」。野中さん所有の山林際に私道と平行してあった、菅古道。ところどころで公道、私道が複雑に重なる。たとえ私道であっても道は皆のもの、という大らかな考えが、当たり前のように、野中家にも、村人や通行人たちにもあった。木々の間から見える里山の風景が美しくのどかで、人と人、人と自然とのつながりが濃かった時代―。 

長靴姿で熊手を携え、藪を掻き分けながら、朽ちた道に命を吹き込む。小林栄次郎さんという強力なパートナーや村の有志の協力を得て、このほど約4キロにわたる菅古道をほぼ復元させた。78歳。伸びた背筋。眼鏡の奥の柔和な瞳が、温かな光を放つ。「先祖に対して、申し訳ないという思いがありました」。荒れるにまかせ、跡形もなかった古道のまま放置していたら、「あの世に行ったときに親や先祖に合わせる顔がなかった」と、打ち明ける。

 hama-831-2
 200年続く眼科医の6代目。「父は、地域のために一生懸命でした」と語る

木曽に200年余り続く「民蘇堂(みんそどう)野中眼科」の6代目。1962年に父親が医療の現場を移した松本市の同眼科を継いで、診療のかたわら、長野県の献眼運動の推進役など多様な仕事をこなしてきた。現在は7代目に引き継ぎ、週1度の入院患者のための宿直以外は、生まれ故郷の木祖村で過ごす。赤ひげと慕われた歴代が使用した文献や資料、医療器具などが収蔵・展示されている私設史料館に足を踏み入れると、野中家がいかにこの地に貢献してきたかに、圧倒される。

「私の父は、薮原スキー場を開設したり、バス会社を興してこの地の交通インフラを整備したりと、眼科医をしながら、地域振興のために一生懸命でした」。そんな父の背中を見て育ったという野中さんが、現役から一歩退いた後でどうしてもやり遂げておきたかったことが、菅古道の復活だった。

 hama0831-91
貴重な眼科用医療器具が展示されている  「民蘇堂(みんそどう)野中史料館」

 hama0831-92
 私設史料館は、新設されたものと蔵を利用したものと、全部で3棟からなる

 hama0831-93
 医学書や文献など、
膨大なコレクションの数々が系統だてて展示されている

ガバナーも含め、長野ライオンズクラブでの活動は33年に及ぶ。同クラブは20年ほど前から環境保全におけるメインテーマを里山とし、数年前に小学生から標語を募集。県内にある各里山の入り口に、子どもたちが作った標語の句碑を建てた。その中から入選作に選ばれたのは、『里山は、心で想い、手で守る』という小学3年生の句だ。 

「信州広しと言えど、古道があって、里山があって、沢が流れているのは、この場所しかありません」。菅古道を歩くと、木々の間から民家が見える。疲れたら、すぐに里へ降りられる範囲にこの道を作った、昔人たちの里山を愛する心が偲ばれる。昨年は、木祖村の中学生が、甦った古道沿いに百草丸の原料となるキハダの木を百本植えた。今年は、村の工芸品のお六櫛(おろくぐし)の原料であるミネバリの木を植樹。若い世代に、確実に古道復活のバトンが引き継がれている。

 hama0831-1 
笑いのたえないご夫婦。木祖村の自然を心から愛してやまない

「古道に腰掛けてると、ただそれだけで幸せな気分になるのです。これからも皆の力を借りて、今後は菅古道周辺を、森林セラピーの基地にしていきたいと思っています」。まだまだ夢は膨らんでいく。

(浜村良子)

 民蘇堂野中史料館
< ・所在地:長野県木曽郡木祖村菅917
                JR「薮原駅」下車、菅方面バス7分「下村(しもむら)バス停」下車、目の前
    ・問い合わせ:0264-36-3020(野中宅)
                      0264-36-3026(野中さん不在時は小林宅)
    ・時間:原則として野中さん、または小林さんが在宅のときのみ開館
    ・料金:無料>

 *関連記事: http://goodnews-japan.net/news/blog/2008/10/08/4208

          http://goodnews-japan.net/news/blog/2008/10/10/4185

コメント

コメントする

(コメントは承認された方のみ表示されます)

トラックバックURL

トラックバック

MAP
 
パック納豆の上に張り付いている、薄〜いフィルム。はがすと、納豆のネバネバがあっちこっちにくっついて、ついイラッ。こんな体験はありませんか。 ...
愛・地球博のフードコートで、食器として導入されてから注目が高まった生物由来の有機資源「バイオマスプラスチック」。原料に食品廃棄物や間伐材など...
生物多様性COP10
木造都市の夜明け
G8・脱温暖化チームマイナス80
和LOHAS
マイファーム