社会的企業家やその支援者などの全国規模のギャザリング「第4回ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング」(主催:ソーシャル・イノベーション・ジャパン(SIJ)、代表理事:谷本寛治一橋大学大学院教授)が2008年9月19日(金)~20日(土)の2日間にわたり、開催された。現在、社会的メッセージを発する注目の人々をゲストに迎え、社会的企業家はもちろん、それを目指す人、また、活動に共感し支援する人々が2日間にわたって、議論や交流を深めていくというもの。日本のソーシャル・アントレプレナーシップのスピリッツを育み、ソーシャル・ビジネスのネットワークの拡大・活性化を目指し、年々充実しているイベントだ。
第1日目は「カイシャが変わると社会が変わる」をテーマに、参議院議員・荻原健司氏とアルビレックス新潟会長・新潟総合学園理事長池田弘氏の特別講演と6つの分科会を開催。荻原氏は日本のソーシャル・ビジネスに対する今後の政策動向とともに、問題意識と期待を語った。ソーシャル・ビジネスの市場は本年度約2400億円。これを3年後に最大2.2兆円になることを目標に、経済産業省を中心に「ソーシャル・ビジネス研究会」が検討を進めてきた。その中心人物が萩原氏だ。「重要視しているのは、ソーシャル・ビジネスの認知度向上のための土壌作り。資金調達の円滑化、人材育成、事業展開の支援、基盤強化を元に、さまざまな可能性を模索しています」と述べた。イギリスでは事業者数5万5000社、5,7兆円市場にまで伸びているソーシャル・ビジネス。日本のソーシャル・ビジネスは、国がどこまで支援し、この3年で市民がどこまで基盤を固められるかが、大きな課題になるだろう。

実際に現場を視察し、触れることで、ソーシャル・ビジネス
の重要さがわかる、と語る萩原健司氏。
1日目の分科会の一つ、「ソーシャル・ムーブメントを巻き起こせ!~事業を通してメッセージを伝え、社会的消費者を育てる~」のセッションには、大地を守る会会長・藤田和芳氏、サステナ代表・マエキタミヤコ氏が登場した。社会的メッセージの上手な伝え方という質問に、「いつも心がけているのはひとつ。対等の目線で伝えること」と答えるマエキタ氏。“キレイな話”は上目線になってしまう傾向がある。だからこそ、どれだけストレートに、人々と同レベルで伝えるかが鍵だという。「ソーシャル・ビジネスやエコ活動は意識が高い人が行っている行動ではない。その情報に偶然触れ、記憶に残り、どれだけアクションを起こすか、だけのこと」と述べた。メディアを通じ、琴線に響くメッセージが増えていけば、ソーシャル・ビジネスやエコ活動は、意識の“高・低”ではない、市民の生活の一部になるだろう。

食・農・環境・LOHASに関するムーブメントを仕掛けることで、
新しい価値観・考え方を伝える、藤田和芳氏とマエキタミヤコ氏。
この日は、優れた社会的事業を表彰するソーシャル・ビジネス・アワードの授賞式も行われた。ソーシャル・ビジネス賞の最優秀賞は「つなげる糸リサイクル・プログラム」を共同して生み出したパタゴニア日本支社、帝人ファイバー株式会社が受賞した。また、今年から設けられたソーシャル・エコビジネス賞の環境大臣賞は、「P&Pリサイクルシステム【新庄方式】」を確立した株式会社ヨコタ東北、NPO法人たんぽぽ作業所、社会福祉法人山形県手をつなぐ育成会「友愛会」が受賞した。

ソーシャル・ビジネス・アワードの受賞者(赤いリボンの人たち)と賞のプレゼンターら
9月20日(土)、2日目のテーマは「ヒトが変わると地球が変わる」。
分科会(第2部)のセッション「社会的企業の広報戦略」では、日本民際交流センター諮問委員・秋尾暢宏氏、フェアトレードカンパニー常務取締役の胤森なお子氏、朝日新聞東京本社編集委員(経済担当)記者・辻陽明氏がパネリストに登場した。
いったい、社会的企業家はメディアに<適切に>発信できているのだろうか。今回は、自らの存在を伝えていく「報じられる側」と、取り上げる意図のもと記事をまとめる「報じる側」、双方の立場に立ってディスカッションが行われた。ソーシャル・ビジネスのパイオニアとして牽引するフェアトレードカンパニー(ブランド名:ピープル・ツリー)の本年度売上は8億円の見込み。しかし、広告活動(ペイドパブ)は一切行っていない。「雑誌『VOGUE』との共同企画による露出や、人気シューズメーカーとのWネームなど、積極的に話題を作り、これらが多くの媒体に広がりました。また、代表のサフィア・ミニーをアイコンとし、露出することで多くの人々にフェアトレード自体の認知度を上げています」と語る、胤森氏。
朝日新聞の記者である辻氏は「ソーシャル・ビジネスは企業ではなく市民セクター。だからこそお金を使うことより、頭を使うことを優先するべき」と述べた。「ペイドパブ(料金を払う広告)で日本中に購買層を増やすことが企業のやり方。一方、コストを欠けずに、メッセージ性の強い言葉やアイデアで人を動かすことがソーシャル・ビジネスの基本です」。
一方、ペイドパブは企業主体で動けるが、一般記事には記者の勉強不足や意図しない表現など問題もある。元広告代理店の秋尾氏は、双方が理解できる立場。その中で大事なのは人とのつながりと述べた。「勉強不足の記者が多い今、いかに自分達の活動を的確に伝えていくか。日本民際交流センターが行ったのは<WHO’S WHO>という探し方」。親戚や仲間などにメディア勤務の知り合いを紹介してもらい、理解してもらえる記者やメディアを探すという、オリジナルの戦略。原始的だが、確実に能力の高い人物に出会えるという。
「報じる側」と「報じられる側」は決して対立しているわけではない。まずは向き合い、地域で広がれば、マスメディアの意識は高まる。そこから市民、日本中に伝わるニュースとして発信できる日も近づくだろう今日のディスカッションは、それを予感させた。
2日間のギャザリングの締めくくりとなるパネルディスカッション「ソーシャル・イノベーションを起こすためにソーシャル・アントレプレナー・企業・行政ができること~米国での取り組みを参考に~」では、慶應義塾大学専任講師の井上英之氏がファシリテーターを務め、ギブ・サムシング・バック・ビジネス・プロダクツ社の共同創設者のマイク・ハニガン氏、投資家/ソーシャルカタリストのトッド・ポーター氏とともに、なぜ、米国では優れた社会的企業が生まれるのかを解き明かした。

社会的企業を生み出す米国での取り組みについて語り合う
左から、井上英之氏、トッド・ポーター氏、マイク・ハニガン氏
井上氏は、サンフランシスコなどでは、大学、社会企業、地方自治体、財団/投資機関、ネットワーク組織、企業などが、ソーシャル・イノベーション・クラスターを形成していることを指摘。ハニガン氏は、オフィス用品の販売による事業利益を社員及び顧客が選んだNPOに寄付するというビジネスモデルが周囲のサポートの下で生まれたことを語った。また、米国のアショカ財団で働いた経験を持つポーター氏は「アショカ財団には、投資から最大の成果を引き出すには何をしたらいいか、という戦略的な発想があった」と述べたうえで、インターネットの普及などで、一つのアイデアが世界に影響を与えることができるようになった。一つのアイデア、一つの種がこの部屋にいる人から生まれ、世界中に広がるかもしれない」と、優れたアイデアを専門家など周囲が支援して育てることの大切さを強調した。
(橋本優香・安在尚人、写真・安在尚人)






















