千曲川の源流に位置する長野県川上村の山中に、巨大な「エイリアン」が出現して村内外の話題となっている。といってもオカルト話ではない。もこもことした体にとぼけた表情、胸にはぽっかり穴のあいた不思議なオブジェ。実は2005年の愛・地球博(愛知万博)で特別展示されたアート作品なのだという。
美しい緑の山並みを背にたたずむ「プレイヤー・エイリアン」
現場は村唯一の中学、村立川上中学校。2009年3月の完成を目指して建て替え工事中で、すでに完成している真新しい校舎と工事用の重機、そして緑の山並みに囲まれ、高さ6メートルの「エイリアン」がたたずむ何ともシュールな光景があらわれている。
オブジェの正式名称は「player Alien(プレイヤー・エイリアン)」。作者は東京芸大出身の若手アーティスト、さとうりささん。国内外7人の若手芸術家が「幸せのかたち」をテーマに制作した万博アートプログラムの一つとして、会場内の「グローバル・コモン1」というスペースに野外展示されていた大型作品だ。
川上村は万博でチーフプロデューサーを務め、会場をめぐる回遊路グローバル・ループを設計した東京の建築家、原田鎮郎(しずお)さんと交流があり、藤原忠彦村長らが会場にも招待されていた。中学校の建て替えは万博開催前から計画があったが、原田さんはその設計の一部に万博で使われた資材の「リユース」を提案。博覧会協会などとの交渉の結果、カナダ館の木製階段と「エイリアン」を譲り受けられることが決まった。村は建て替えの基本計画にこれらの活用を盛り込み、07年6月には原田さんを審査員に招いた設計コンペを開催。「エイリアン」を中心に地域へ開かれた小公園を設ける地元の設計事務所の案を採用した。
約2万6000㎡という広大な敷地に、延べ床面積約6500㎡の教室棟や体育館、音楽棟など5つの建物が渡り廊下などで結ばれる。地元で植林されたカラマツ約7000本分の木材がふんだんに使われており、校舎は木のぬくもりと香りでいっぱい。カナダ館の階段は教室棟の吹き抜けのホールに据え付けられ、カラマツの質感とも調和する。建築部分は08年8月までに完成、2学期から生徒が利用しており、歓声が木のホールや廊下に響き渡っている。
9月上旬には原田さんとさとうさんが同校を訪れ、設計やオブジェにこめた思いを全校生徒約170人の前で語った。「エイリアン」は一見愛らしいが、心臓は胸に空洞を残し、離れたところに転がる。さとうさんは、理解できない他者を自動的に「エイリアン」と決めつけず、何かが欠けている自分や他人を認め合おうという作品の意図を語ったという。齊藤克実校長は「最初は何だ?と思っていた生徒も、作者の思いを聞いて納得したようだ。登下校時に常にこの作品を見て、つらいことがあっても前向きに学校生活を過ごしてほしい」と話す。
村はもともと林業が盛んだったが、安い外材の流通で次第に衰退。主な産業はレタスなどの高原野菜の生産に移った。しかし近年、村は林業の復活をかけて植林を推進。木材の加工技術も発達し、建材としての扱いが難しかったカラマツが集成材として大々的に利用できるようになった。今回の校舎は新たな村おこしに向けたシンボルでもある。
ランチルームから「エイリアン」を望みつつ新校舎について語る齊藤克実校長
齊藤校長はこう結んだ。「おじいちゃん、おばあちゃんの代から育った木に触れることで、子どもたちにも感じてほしい。次代を担う君たちに、村の人たちはみんな期待しているんだよ、と」
(関口威人)






















