冷凍食品や加工食品といったファーストフードが私たちの食生活の一部として、すっかり馴染むようになって久しい。しかしここ数年はバランスを取るかのように、ファーストフードに対してイタリア発の「スローフード」が見直されるようになってきた。

そのスローフードの流れのなかで世界的に脚光を浴びたのが「マクロビオティック」である。これは玄米と野菜を中心とした食事のこと。元は昔ながらの日本食なのだが、おもしろいことにヨーロッパから逆輸入されて日本でも広く知られるようになった。世界中の食材が自由に手に入る現在はともかく、貿易がなく交通も不自由だった昔の日本人は、地元で採れた米と野菜、そして自家製の味噌(自画自賛の「手前味噌」という言葉の語源)が食事の中心であり、おふくろの味だった。実はこれこそ、健康を維持する上でもっとも理想的なメニューだと東洋医学では考えられている。
生物は自分の棲む環境に適応するとダーウィンは『進化論』で語った。熱帯には熱帯の、寒冷地には寒冷地の、深海には深海の生態系があり、それぞれは基本的に干渉することがない。ライオンはイルカを狩らないし、ホッキョクグマはバナナを食べたいとは思わない。そもそも、食べる必要がない。同じことが人間にも言える。南国に住む人は南国で採れるものを、雪国に住む人は雪国で採れるものを食べることで、環境に対する耐性が養われる。この地産地消の概念を真土不二(しんどふじ)と呼び、東洋医学、特に食養(しょくよう)では重要視されている。
さらに昔ながらのおふくろの味で重要なのは「命」を食べていることにある。米は多くの子孫を残す可能性を秘めた玄米。野菜は冷蔵庫も保存料もなかったので、基本は地元の新鮮野菜。それに家庭で発酵させた味噌と糠漬け。
これらは酵素が豊富という点で共通している。実は酵素というのは人の身体を動かしたり、食べ物の消化を助けたりと、生命を維持する上で非常に大切な役割を担っている。人間に必要なのは三大栄養素とされていたのが五大栄養素になり、最近は六大栄養素と言われるようになったが、これに酵素が含まれるのも時間の問題だろう。味噌汁の味噌は火を止めてから入れるもので、煮立たせないように配慮するのが普通である。実は、酵素は60℃で30分加熱すると死滅してしまうため、この調理法は風味だけでなく酵素も守っているのだ。味噌汁の作り方といい、すべての家庭で当たり前だったぬか漬けといい、伝統的な日本食は酵素を最大限に摂る知恵が実践されていて、とても興味深い。
ちなみに、精製された白米や加熱処理されたインスタント味噌汁、化学調味料で味付けされた漬物には酵素が少ない。献立が一緒で六大栄養素の含有量が変わらなくても、酵素が含まれているかどうかで、食事はまったく別物になってしまうから注意が必要だ。我々は食事を通じて「命(酵素)」を体内に摂りいれていることに注目すべきである。
考えてみれば古くからの「おふくろの味」には何の奇もてらいもない。ごく自然な食事を、ごく当たり前に作っていただけである。ところが現代はその「ごく自然な食事」を食べるのが、かえって難しくなってしまった。私も食事を真摯に考える人間の一人として、スローフードの流れが一過性のブームで終わらないことを願っている。
■筆者プロフィール
辻野将之(つじのまさゆき)
株式会社SoRA代表取締役、食事療法士
所有資格:はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師、調味料ジュニアマイスター

東洋医学と食事療法の知識と実践を学び、日本の食事情を実見するため全国の食の生産者を訪ね歩いた経験を持つ。2006年には株式会社SoRAを創立。代表として、人と自然を健全に保つ日本文化の再建を志している。現在は「そら鍼灸食養治療院」のほか、宿泊型の生活習慣改善プログラム「森林養生」で治療活動に従事。限りなく海水に近い塩「うみたま」の販売、東洋医学を分かりやすく紹介するメールマガジン『70%健康マガジン』の配信もおこなっている。
※リンク
株式会社SoRA http://www.soragroup.jp/
そら鍼灸食養治療院 http://soragroup.jp/shinryo/index.html
森林養生 http://www.hoshinoya.com/plan/forest/index.html
70%健康マガジン http://magazine.soragroup.jp/






















