増田達矢さん(36歳)は、考古学の仕事をした後、29歳のとき有機農業を始めた。考古学で昔の人の生活を見ているうちに自給自足に憧れ、現在の都会生活の中で「自分が食べる物を自分で作っていないことに不安を覚えた」からだ。1971年から有機農法を実践してきた業界の先駆者である埼玉県小川町の金子美登(よしのり)さんの霜里農場に弟子入りし、農業研修を行った。化学肥料・農薬等に依存せず、身近な資源(自然エネルギー)を生かし、食物だけでなくエネルギーも自給して 自立する金子さんの農法を学び、毎晩メモを取る生活を続けた。
四季の流れを一通りつかむため、研修は一年間行われる。農家は経験を、若者は労働力を提供し、基本的にボランティアだ。
独身の学生などは住み込みで宿泊と食事が出るので、ほぼ資金がいらないが、増田さんの場合は、当時結婚していたので、アパート代や光熱費、交通費など含め一年間で100万円ほどの出費になった。研修が終わった時、金子さんから頂いた農業機具は、今でも増田さんの宝物だ。

農場で作業中の増田達也さん
有機農家として独立。「津久井根っこ農園」を開業
津久井町(現相模原市)の農業委員会を通して40a(アール)(1a=100�)の畑を借りて(現在は畑70a、水田10a)、「津久井根っこ農園」を始めたのは2001年。
もちろん、ある程度の農業経験をした人材でないと、農業委員会から農地を借りる許可が下りない。増田さんの場合、初期の設備投資にだいたい100万円かかった。
最初の一年は、ほとんど収入にならないので、当座の生活費のための貯蓄が更に必要となる。
「(新規就農する際)だいたい300万円があれば、なんとかなりますね。
もちろん無一文で始めた方もいらっしゃいますが。(笑)ただ本来はこの資金の一部を、国が負担すべきだと思います。高校や大学を卒業した若者が、進路の一つとして農家を選ぶようにならないと」
日本の食料自給率は4割、農家の平均年齢はなんと65歳。増田さんのような若手農家の新規参入に、私達の未来がかかっている。
有機農業は、次世代にむけたオルタナティブアグリカルチャー(代賛農業)
「津久井根っこ農園」では、きゅうり、とうもろこし、じゃがいも、さといも、だいこん、にんじん、米、小麦など年間50品目の野菜と穀物を生産して、約40家族と購買契約をしている。一年間の収入は日本の平均年収の半分ほど。ただ有機の場合、肥料も通常は捨てられてしまう自然物(剪定屑・オカラなど)で自作したり、種も前年度採れた種を使ったりと工夫を重ねれば、経費はそんなにかからない。取材日、筆者はふきを頂いたのだが、太陽と豊かな土の恵に育まれた、“濃い味”が魅力だった。畑には、雨水利用や、街路樹の剪定屑のリサイクルなど自然エネルギーを最大限に生かす様々な工夫が。「有機こそ、次世代にむけたオルタナティブアグリカルチャー(代賛農業)”なんですよ」と増田さん。

じゃがいも畑で草むしりをする増田さん
除草剤も一切使わないため、土には雑草が勢い良く生える。取材した日、増田さんは東京から援農に来た購買者の方々と共に、じゃがいも畑の草むしりを丹念に行っていた。顔の見える購買者との関係を大事にしている。その為にも一つ一つの野菜に、手間と愛情をこめる。
有機JAS申請、中小農家にとって負担に
スーパーなどの売り場で、有機JASと言われるマークを付けた野菜をみたことがあるだろうか?許可されたもの以外の肥料・農薬を使用していないなどの審査に合格すれば、このマークを取得することが出来る。しかし有機JASを申請・取得するのに、農産物の種類につき、約20万円の費用がかかる。有機野菜を作る農家 のほとんどは、増田さんのような中小農家だ。中小農家にとって有機JAS申請にかかる金銭的負担は、決して小さくはない。検査員が畑まで来て農薬の濃度などを調べる際の交通費、宿泊費まで農家が負担する。だがその経費を野菜の消費価格に上乗せすることは難しい。
「有機JASは有機農産物を流通に乗せて売るために必要なもの。有機野菜は高いというイメージがありますが、農家と消費者が直接やりとり(販売・援農)すれば、適正価格で消費者の皆さんに届けることが出来るのではないでしょうか。農家は畑で現状をぼやいていても世の中は変わらない。これからは農家がもっと世間にアピールしていく時代です」と増田さんは語る。
私達消費者は、自分たちの食を支えてくれている国内農家の現状をあまりにも知らない。ニッポンの食卓が崩壊しそうな今、彼らとの共存関係をどう探っていけばいいのか。ひょっとすると信頼できる専属農家との直契約などの太いパイプが、今後の食糧難時代を生きぬく最後の命綱になるかもしれない。
(記事・写真:増山麗奈)

じゃがいもの新芽 一つの種から15倍の量のじゃがいもが収穫される
旬の露地野菜7〜8品目を段ボールに入れて、一箱1500円(送料別)で全国に出荷している。
購入などのお問い合わせは↓
津久井根っこ農園:nekko-nouen@nifty.ne.jp























