京都議定書が採択された地球温暖化防止京都会議(COP3)で活躍した、気候ネットワークの代表で弁護士の浅岡美恵さんに、2008年7月のG8(主要国首脳会議)を控えた今、地球温暖化に関する政策のあり方などについて、NGOならではの視点で、語っていただきました。
Q NGOとして国際会議に参画され、メディアに報道されないような内容を知る機会があると思いますが、最近の気候変動枠組条約COP13やG20(地球温暖化に関する主要20カ国閣僚級会合)などでそういったことはありましたか。
温暖化の国際交渉は筋書きのないドラマのようで、論点も多く技術的で複雑ですし、すべてが公開されているわけでもないため、全体像を瞬時にとらえて報道することは大変むつかしいと思います。テレビや新聞などマスメディアの情報源は政府の広報が大きなウエイトを占めていますが、NGO側からの見方も重要です。昨年12月のバリでの米国も加わった気候変動枠組条約COP13と米国を除く京都議定書MOP3会合は、そのことをよく示した例といえます。

バリ合意の風景
最終日の15時に条約のもとでの会議で2009年末までに2013年以降の先進国と途上国の目標や適応策、資金や技術移転についての包括的な合意に至ること、そこへのバリ行動計画が採択されましたが、米国、日本などの反対で本文に数字は明記されませんでした。引き続き開かれた京都議定書のもとでの2013年以降の目標についての作業部会の会合では2つのオプションをめぐって激しい議論となり、18時になって、反対していたカナダやロシアも賛同に回り、「世界の排出量が今後10-15年にピークを迎えるようにする」、「世界で2050年までに2000年比で半減よりもはるかに低いレベルに削減」、「先進諸国全体で2020年までに1990年に比べて、25%~40%削減」という数値が盛り込まれた合意文書が採択されました。米国や中国などの2013年以降がどのように参加するかという点では前者の結果は重要ですが、日本の2013年以降の数値目標の行方についてみれば後者の合意は大変重要です。しかし、後者の内容は、日本国内では殆ど報道されませんでした。
どうしてそうなってしまったのかといえば、15時にバリ行動計画が採択されるや、後者の交渉結果を待たずに、日本の政府関係者もマスコミ関係者も殆どが会場を出ていき、前者の合意には数値が盛り込まれなかったとの政府のブリーフィングがなされたために、それがバリ合意のすべてであるような報道になってしまったように思います。15時以降も会議場に残った日本政府関係はわずかで、その場では何も発言しませんでした。その日の公式の政府広報に後者の合意内容についての記述は全くなく、国内に戻ってから、日本は後者の合意に賛同していないとの発言もありました。2013年以降の日本の総量削減目標の設定に経団連が反対を続けており、政府は後者の会議の結果を無視することにしていたのではないかとの疑念も浮かびます。日本国内で国際社会の議論の流れが正しく伝わらないと、事業者も国民も対応を誤ることになります。先日行われたG20でも、セクター別に中期の国別総量削減目標が設定されたと報道はされても、中身は「できることからできるだけ」という内容になっていることが伝えられていないのです。その程度では、現在の気温が、2020年から2060年までの間のピーク時に、工業化前に比べて3~4度上昇するというシナリオに従うことになってしまいます。
Q 地球温暖化問題の内容について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)など権威ある報告が証拠として出されることが多いのですが、その是非は?
IPCCは、いくつかのシナリオを示し、政治に選択を求めています。問題は、気候変動の悪影響を最小限にとどめるケースでも、工業化前に比べて2度以上の上昇が避けられないと予測されていることです。むしろ控え目の予測といえます。平均で2度の気温上昇は深刻です。4度もの上昇となれば、地球生態系は破壊されてしまうでしょう。気温の上昇を2度未満に抑えるという目標を選択し、そのためには必要な方法を議論し早く実行すべきだと思います。

Q 気候ネットワークとしての活動の今後を教えてください。
今年のG8会合や2009年末の国際合意に向けて日本が前向きに貢献し、危険な気候変動を防止していくために、日本に欠けているのは、日本自身の中長期目標とその達成のための方策です。柱となるのは、科学の要請に基づく中・長期の総量目標を設定し、炭素に価格をつけ、削減を促す経済的な仕組みを導入することです。科学の要請に従い、2020年に90年比30%、2050年には80%削減程度は不可避です。日本政府は、国別総量目標設定の方策として、セクター別の効率積み上げ方式を提案していますが、そうした積み上げで十分な削減目標を設定することにはならず、国際社会から削減逃れとの批判を受けています。大幅削減目標の達成のための中核をなす方策は、国内の排出の大半を占める大規模排出事業所に排出上限枠を定めて排出量の取引を認めるC&T型国内排出量取引と炭素税の組み合わせです。その基礎となる排出量情報を把握し、公表して国民的に共有していくことがまず必要です。
EUでは域内で排出量取引を開始していますが、それだけでなく、イギリスではすでに気候変動法(Climate Change Law)という法律が議会に上程されています。NGOが政党に働きかけ、人気ミュージシャンのレディオヘッドのメンバーが参画するなどして、ビッグアスク(Big Ask)というムーブメントが盛り上がり、法案制定を後押ししました。ドイツでも同じ動きあります。米国の排出量取引の法案策定にはNGOが深く関与しています。日本の地球温暖化対策推進法は2012年までのことで、対策の中味もありません。そこで、気候ネットワークとして危険な気候変動を防止するための「気候保護法案」を提案し、その実現に向けて政治を動かしたいと思っています。議論の輪を広げていくために、英国や米国、EUの法案を翻訳して冊子にまとめました。イギリスやアメリカ、EUのように、若者をはじめとして、もっともっと多くの人に参画してほしいと思っています。気候ネットワークの活動への資金の支援も求めています。
(佐藤直樹)























