東北大学教授の石田秀輝さんは「ネイチャーテクノロジー(以下、ネイチャーテック)」という、それまでは世界中の誰も考えなかった研究をされています。ネイチャーテックとは何か?また、研究をはじめられたきっかけをお聞きしました。
石田秀輝さん
1987年頃から、株式会社INAXで省資源・省エネルギーを追及していました。焼かないセラミクスを作ろうと。それが、1992年に「成長の限界」(1972年・ローマクラブ)のデニス・メドウ氏らが書いた「限界を超えて」を読んだのがきっかけになって、環境という頭にパーンと切り替わりました。その年の4月に会社の中に環境の部署を作ってもらいスタートしました。 ―― 1冊の本が考えを変えたのですね?本を読んで、僕がやらなきゃいけないことはこれだと思いました。焼かないセラミクスとか、木の代わりになるセラミクスとか、削れるセラミクスとか・・・。基本的にはセラミクスから外れていませんけどね(笑)。バラバラ立った断片が環境というベースで一気につながった。論理的にやらねばならないと思ったのです。確信はしたけれど、自己矛盾でした。なぜなら、物をつくるということと地球環境に負荷をかけないということは、相容れないのだから。それから5年間考え続けて、『人間というものは、生活価値の不加逆性を持っているものだ』ということにやっとたどり着きました。つまり、一度得た快適性・利便性を捨てられないのだということを。だから企業はものづくりをするのだ、ものづくりが使命なのだという結論です。その結果、1997年に「人と地球を考えたものづくり」をINAXが発信できたのです。
―― ネイチャーテックと聞くと、ジャーナリストの赤池学さんの「自然に学ぶものづくり」を思い出します。石田さんと赤池さんはどちらが先に言い出したのですか?
ほとんど同時期ですね。彼は、昆虫という地面の上の世界。僕は、土という地面の下の世界を考えていましたが(笑)。カタカナなので、海外から入ってきたように思うかもしれませんが、実は僕らがつくった言葉なのです。海外には「バイオミミクリー」という研究はあります。それは、『自然を模倣するものづくり』であり、ネイチャーテックはまったく違うものです。ネイチャーテックは、自然を科学の眼で観て、人間にとって必要なものをリ・デザインすることによって、地球への負荷をとても小さくすることができる、まったく新しいものつくりや暮らし方を提案しようとするものなのです。循環型社会と言っていますが、人間社会ではできていません。でも、自然はちゃんと創り上げています。完璧なシステムを持っているのです。昆虫は利己を生きる原理としていますが、淘汰と言うメカニズムが働きバランスが保たれています。しかし、人間には淘汰が働かないので、『欲』を徹底的にコントロールしないと循環型社会はできないと思っています。
ネイチャーテックについて講演する石田秀輝さん(名古屋市科学館で)
救いようがあるのは、日本人の自然観です。大地が揺れ、川は滝のように流れ、緑が襲ってくる。自然は恐ろしいと思う。我々が生かされていることを知り、すべてに神が宿っていると言う考えです。その思想が文化となったのが、江戸時代の「粋(いき)」だと思っています。
江戸文化は物欲ではなく精神欲です。技術も、生きることを楽しむことに使っていたのです。粋(いき)の概念は4つあります。1.生きることを楽しむ。2.敗者をつくらない。3.足るを知る。4.メタファー(比喩)です。人間は欲望を捨てられません。粋の思想は、利己であっても循環型社会をつくるソリューションのひとつだと考えています。テクノロジーに精神性を入れることです。
―― 愛知・名古屋が生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を誘致していますが、生物多様性とものづくりにはどんな関連性があるとお考えですか?
人間がいつまで生存できるかを、生物多様性の中で考えています。絶滅危惧種も大事ですが、「生態系サービス」の価値を考えるべきです。アメリカの研究者は世界の生態系サービスが総GDPの1.8倍だと試算しています。僕の思考回路は、種の保存ありきではありません。ネイチャーテックで生態系サービスへの負荷を最小限にするということです。2030年の制約因子(資源の絶対量や技術的可能性、経済性などの制約因子)の中でも、楽しく暮らしたいという欲望はあります。「もの」から「こと」への発想の転換が必要です。たとえばシロアリの巣を研究すれば、無電源のエアコンシステムができます。コンピュータなどのように電子機器はできませんが、暮らしの必需品はできるものが圧倒的に多い。生活者の意識が変わるところから社会が変わります。産業構造が変わるのです。暮らしの中のネイチャーテックを考えることが肝心ですね。
―― 石田さんの語り口はソフトで、内容はとても示唆に富んでいます。環境とものづくりという矛盾するテーマを徹底的に考えて出した結論が、ネイチャーテックだということです。石田さんの「欲望の質を変える粋(いき)の研究」に期待したいと思います。
(聞き手:安在尚人、構成・写真:伊藤剛)
ネイチャーテック:http://www.nature-sugoi.net/
赤池学:http://www.udinet.com/company/member_akaike.htm
バイオミミクリー:http://japan.cnet.com/special/biz/story/0,2000056932,20303987,00.htm
生態系サービスに関する論文:http://takenaka-akio.cool.ne.jp/repro/ecosys_service/ecosys_service.html
COP10を愛知・名古屋で開催しよう:http://www.cop10.jp/aichi-nagoya/























